動画配信サービスのNetflix(ネットフリックス)が、プラットフォーム上の約300作品において生成AI(ジェネレーティブAI)を活用したことを明らかにしました。
多くの作品で、特にポストプロダクション(撮影後の編集工程)を中心にAIが導入されており、複雑なシークエンスの作成などに利用されています。一方で、同社は映像作品における人間の創造性や感触の重要性を改めて強調しています。
どのような場面でAIが使われているのか
Netflixの発表や報道によると、AIは映像制作のさまざまな段階で導入されています。アジア太平洋地域のプロダクション・シニアディレクターであるSung Q Lee(サン・キュー・リー)さんは、プリビズ(本撮影前の事前視覚化)やプロダクションデザイン、セット装飾のコンセプト立案、さらには編集やVFX(視覚効果)にAIが活用されていると説明しています。
具体的にAIによって作成されたのは、以下のような高度に複雑なシーンだといわれています。
- 強化された群衆シーン
- 歴史的な戦闘シーン
- 世界観を提示するエスタブリッシング・ショット(Establishing shot:場面設定のための全景ショット)
例えば、アメリカ独立革命を扱ったドキュメンタリーシリーズ「The American Experiment」では、17分間のAI強化映像が含まれていると、共同CEOのTed Sarandos(テッド・サランドス)さんが述べています。
AI導入がもたらしたメリットとコスト削減
AIの活用によって得られた大きなメリットの一つが、予算と時間の制約を乗り越えられる点です。サランドスさんは、AIがなければコストやスケジュールの都合でカットせざるを得なかった重要なショットを維持できたと語っています。
実際に「The American Experiment」のAIによる17分間の映像は、従来の選択肢に比べて制作速度が2倍速く、コストは半分に抑えられたといいます。
また、映画「The Outlaws」を監督したKang Yoon-sung(カン・ユンソン)さんは、AIワークフローの導入によって、長編映画の制作予算を30%から40%削減できる可能性があると指摘しています。カンさんは、予算の制約で断念していたシーンを再び検討できるようになったと述べており、CGやVFXの代替だけでなく、撮影自体の効率化によって制作期間も短縮されたとしています。
「人間の感触」こそが不可欠な理由
AIによる効率化が進む一方で、Netflixや業界関係者は、AIが人間のクリエイティビティに取って代わるものではないという姿勢を明確にしています。
リーさんは、技術的な変化や新しいツールは「どのように作るか」という方法論を改善し、より良い作品を作る助けになるものの、「物語を語る理由や目的」という根本的な理由はAIが決めることはないと説明しています。また、感情を伝えることに関しては、最終的に人間が触れる必要があり、人間の感触が不可欠で必要であると強調しています。
同様に、Wētā FX(ウェタFX:ニュージーランドのVFXスタジオ)のCTOであるKimball Thurston(キンボール・サーストン)さんも、同社でのAI利用をあくまで「補助的なAI」と表現しています。クリエイティブな意図をAIに書き換えさせるのではなく、繰り返し行われる単純な作業を減らし、監督や撮影監督が迅速にエラーを特定して修正できるようにすることが目的だとしています。
課題と今後の展望
AIの活用は万能ではありません。カン監督は、以前AIを全工程に導入した作品において、当時のAI映像が実写映像とうまく馴染まなかった経験があることを明かしています。また、AIの進化スピードが非常に速いため、リリースされる頃には映像が古く見えてしまうという課題にも触れています。
それでも、現在のツールでは4K解像度や10ビットカラー以上の出力が可能になるなど、品質は向上し続けています。
Netflixは、AIを導入することで、伝統的な手法よりも低コストかつ迅速に、より高品質なアウトプットを提供できると考えています。しかし、同時に素晴らしい作品を作るには素晴らしいアーティストが必要であり、AIがその事実を変えることはないという考えを示しています。
まとめると、映像業界におけるAIは、クリエイターのビジョンを実現するための強力な「道具」として位置づけられています。効率化やコスト削減という実利を得つつも、物語の核心である感情や意図をコントロールするのは人間であるという境界線が引かれているようです。
出典 The Hollywood Reporter Variety The Verge Engadget Netflix Executive Says AI Has Touched 300 Titles as Director Claims Budget Savings of Up to 40% – Northeast Times Netflix Used Generative AI in Nearly 300 Titles Netflix Co-CEO Explains How Gen-AI Was Used in 300 Different Titles
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